先日、高校サッカー部の同級生と忘年会を開いた。40歳半ばを過ぎても馬鹿話ができる、まさにかけがえのない仲間なのだが、歳を重ねるごとこに深まっていく友人たちのポンコツぶりには、「よくこれで仕事をしているなあ」と呆れるというか、笑える。
毎回のことだが、まず日程を決めるのに一苦労する。みな家庭があって仕事があって忙しい、という理由からではない。LINEを使っているのに、使いこなせていないのだ。
例えば、高校のサッカー部で8名ほどのLINEグループを作っており、いつもそこで日程を調整するのだが、うんともすんとも言わないH君。忘年会に来るのか来ないのか分からない。ただ、既読はついているから日時はシェアできており、来るのだろうと想像する。
で、当日。
待ち合わせの時間が近づくにつれ、「10分ほど遅れる」とか「今、新幹線で横浜を過ぎた」とか、めいめいがグループに報告するなか、相変わらずH君が入ってこない。
「まさか来ないのか?」
不安になり、「おい、H君、今日はどうすんだ?」としびれを切らして尋ねると、なぜかH君でなくK君が、「来るよ」と答える。
「はあ…、お前に聞いてないよ」と心の中で思いつつ、K君もちょっと天然だから勘違いしているのかもしれないと放っておくと、しばらくしてK君が続けた。
「H君、今日は来るって、さっき電話で言ってたし」
待ち合わせ場所につくと、先に到着していた1人がボクの顔を見るなりボヤいた。
「LINEグループがあるのに、なんでわざわざK君に電話で知らせてるんだ? あいつバカか? 俺ら、ちっともLINEを使えてないな」
その後、ぼちぼち友人たちが集まり始め、誰かが遠くを見つめ、顎でさす。
「おい、やっぱりN君が来たよ」
「あいつ、マジかよ…」
思わずボクはため息をついた。じつは、このN君が一番の厄介者。まったく社交性がないというか、社会性がない。携帯は持っているけど絶対に出ない。メールを送っても返ってきた試しがない。これまでの20年、かなりの数のメールを送ったのだが返信はゼロ。一切返さないのだ。
来るのか来ないのか、そもそもメールを見ているのかさえ分からず、そのクセ、いざ飲み屋や会場に行くと、いつもしれっとした顔つきで酒を飲んでいるのだ。
ボクにだけメールを返さないのかと思ったが、そうではなく、誰にもメールを返さない〝主義〟らしく、そんな彼と唯一コミュニケーションを取れるのはK君のみ。とはいえ、その伝達手法も平成が終わろうかという時代には相応しくないものだった。
「ところで、どうやってN君に忘年会の日時を知らせたんだ?」
「2週間くらい前に、実家に電話して知らせた」
「2週間前? しかも実家に電話? まさか、それだけ?」
「そう。いつも実家に電話して、終わり」
この原始的な手法しか受け付けないらしい。実家に電話した後は、やはり携帯にもメールにも無反応なため、もはや来るものとして放っておくそうだ。つまり、もし当日になって急に場所や時間が変更になってもN君に知らせる手段はない。高校時代のまんまだ。
しかし、それでもN君は、最初に聞いた通りの場所と日時を信じてやってくる。
そして、今回も現れた。
「ふざけんなよ、お前、マジでバカだろ?」
「仕事の電話も出ないのか?」
みなにボロクソ言われながらも、N君は毎回嬉しそうにニヤニヤしながら酒を飲む。よく分からない男だ。よく分からないうえに、面倒だが、そんな付き合いが30年だから、もはや誰も本気では怒っていない。
ちなみにN君、サッカー部時代は〝神のような存在〟であり、間違いなくJリーグレベルの選手だった。彼がボールを持つと誰も触れず、グランドの上ではまさしく王様のように振る舞い、そんな姿にみなが畏敬の念を抱いたものだった。
が、今は〝携帯に出ない男〟として生きている。
しばらくして、LINEグループに無反応だったH君がお店に合流してきた。「なんで電話なんだ?」と尋ねるも、よく分からないことを言っていたから、みな聞き流していた。
そして残念ながら、ポンコツは彼らだけではない。宴の途中で、鍋が運ばれてきたときのこと。
「モンブラン鍋って知ってるか? すごい美味いんだよ」
E君が自慢げに言う。
「…モンブラン鍋?」
「そう、モンブラン鍋。鍋にモンブランを入れて、モヤシや豚肉と一緒に煮込むんだ」
モンブランを鍋に入れる? あの、ケーキのモンブラン? 斬新なスイーツ鍋だろうか。みな首をひねりながら耳を傾け、E君はさんざんモンブラン鍋の美味さを語り尽くしたところで、
「あ、モランボンだった」
誰かが、「やっぱりネ」とため息をついた。モランボン。タレのメーカーだ。
E君もまた昔からなかなかのポンコツで、高校時代、一緒に歩いていると急に誰かに親し気に話しかけ始めたので、さぞ仲のいい友人かと思ったのだが、
「…ところでお前、誰?」
しばらくして相手が立ち去ってしまった。似ている友人と間違え、それに気づかず延々と一方的に話をしていた。
そんなE君も、会社では立派な管理職。いいのかなあ日本企業と、つくづく思ってしまう。
結局、ボクの家にタクシーでE君を連れ帰ったのだが、ふと見ると、彼は見たことのない毛布をかぶっている。お店で出されたひざ掛けを持って帰ってきたのだ。やれやれだ。
朝起きて、E君はタバコを吸うためにコートのポケットに手を入れた瞬間、甲高い悲鳴を上げた。
「うわ!犬のウンコが入ってる!」
「んなワケないだろ」
「いや、ほら」
あ、思い出した。ボクが寝る前に入れたやつだ。ボクもポンコツった。彼はもう一方のポケットも確認し、
「うわ、こっちもウンコ! でも、ウンコが乾いていて良かったあ」
と、平然とタバコを吸い始めた。
ポンコツの友人たちも、あと数年で50歳。愛すべき仲間たちである。
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