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セブンイレブンが100円ビールを諦めた意味

ちょっと古い話だが、セブンイレブンが「100円で生ビール」という新たな戦略を目論んでいた。ブームを巻き起こした100円コーヒーと同じ要領で、ワンコインで手軽に生ビールを楽しんでもらおうという新機軸の販売手法である。

ユニークなマーケティングを得意とするセブンらしい斬新な発想だ。

ところが、試験販売である「テストマーケティング」を行う直前になって急きょ中止してしまった。「飲酒運転を助長する」「店の前に酔っ払いが増える」といった否定的な意見が寄せられ、イメージ悪化を避けたらしい。

冷静に考えれば、それらの意見が合理性を欠いているのは明らかだろう。コンビニには100円ちょっとの発泡酒が豊富に売られており、今回の新戦略と飲酒運転や酔っ払いはまったくの別問題といえる。

業界のトップ企業ゆえの判断は分からなくもないが、大きな消費トレンドを生み出す可能性を秘めていた企画だけにもったいない話である。

しかし、それにしても、実験もせず白紙に戻すとは――。
今回の例に限らず、テストマーケティングの〝意義〟を勘違いしている企業が多いようだ。

そもそもテストマーケティングとは「成功のために行うテスト」ではない。むしろその真逆の「失敗のために行うテスト」である。

大きな失敗ほどウマミがある

成功から学ぶのはなかなか困難なものである。新規事業なり新商品の発売なりうまくいっていると、企業も社員も「やっぱりこの方法で正解だった」と安堵し、たとえ小さな欠点や違和感があっても気にしない傾向が強い。

ところが、失敗すると「どこに問題があったのだろうか?」とみなで真剣に頭を悩ませ、値段を見直したり商品コンセプトを変更したり、解決策を講じる。つまり、成功でなく失敗こそ商品やサービスを改良する〝良薬〟となる。

もちろん最初から失敗を狙う必要はないにしても、テストマーケティングにおける失敗ほど学びは大きく、貴重な意見を得られる機会はない。多くの失敗、大きな失敗が、多くの成功、大きな成功につながるとも言える。

反対に言えば「成功づくしのテストマーケティング」など社内評価はOKでも、事業の成長性からいえば何の意味もないだろう。というのも、失敗を恐れるあまり〝無難なテスト〟に終始しているケースが少なくないからだ。

さて、セブンの場合。テストマーケティングを実施する前から否定的な意見が多数寄せられていたという。すなわち、それだけ大きく失敗する可能性があり、言うなれば「多くの学びと貴重な意見を得られた」はずだった。法的な問題があったならともかく、自ら中止を選んでしまったのはもったいない限りである。

失敗をウマミに変えるコツ

穴が空いたところを的確にふさぐ――。

失敗した箇所に相応しい戦略をあてがうことこそマーケッターに求められる「技術力」だろう。まずは穴を探さねば始まらないし、仮に穴を見つけたなら、その大きさや症状にマッチした手法でふさがないと、決して穴は直らない。

例えば、それまで1万円で提供していたサービスをリニューアルして1.5万円で販売したい。そこで消費者反応を探るためテストマーケティングを行ったところ、まったく売れなかったとしよう。

値段を上げ過ぎた――。
と考えがちだが、穴はそんなに単純でない。

例えば、リニューアルそのものが認知されなかったなら「PR」や「広告」を工夫する必要がある。購入寸前でやめる消費者が多いなら「接客」の問題だろう。商品の説明ボードに首を傾げている場合は「POP」が弱いのかもしれないし、あるいは「ブランド」が刺さっていない可能性もある。

テストマーケティングは「失敗のために行うテスト」と言ったが、それはこうした原因分析のためにも重要なポイントだ。というのも「成功のためのテスト」はどうしても‶無難な線〟を選びがちのため「どこが悪いかのか」を曖昧にしてしまうからだ。

例えば「さすがに1.5万は受け入れられないだろうから、サービスを控えめにして1.2万円くらいにしておくか」といった具合だ。テストが中途半端になれば、穴は「値段」なのか「商品」なのか、あるいは「PR」なのか「接客」なのか「ブランド」なのか分からなくなる。もはやテストの意味すらないだろう。

「こんな商品、絶対に売れないだろう」とか「こんな販売スタイルは世にないけど大丈夫か?」とか、やや大胆な方がテストマーケティングの効果は高まるし、また失敗をウマミにも変えやすい。テストなのだから、テストした方がいい。

ボクはこの20年、様々なテストマーケティングを行ってきた。なかでも農業ベンチャーを立ち上げる際は1年かけて徹底的にテストマーケティングを行い、たくさん失敗した。ただ、それが優良なビジネスモデルをつくるベースにもなった。

垣間見えたセブンの強さ

いつもセブンのマーケティングは秀でている。消費トレンドを生み出した100円コーヒー、それに次ぐドーナツ販売、そして販売未遂に終わってしまった100円ビール――。常に時代をリードし、消費者の先を歩いている。

なぜ、セブンのマーケティングは強いのだろうか。

じつは今回のテストマーケティングを中止した〝背景〟にその理由を垣間見た気がする。そもそも今回のテストマーケティングは「経営陣に内緒で行っていた」というから、驚く。現場に勇敢な社員がいる企業はやはり強い。セブンのことだから、いずれ度肝を抜く企画を出してくるに違いない。

それにしてももったいない100円ビールという新戦略。どこかのコンビニがパクればいいのに。

◆Yahoo!ニュースなど多くのメディアに転載された2018年以前のブログは↓

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