いたずらに米流を追いかけ、時代や流行によってその都度やり方が変わるだけでなく、人事異動で担当者まで変わってしまう――。
前回と前々回において、日本企業のマーケティングが安定しない、成果がでない理由に関して「組織面」「戦略面」という2つの視点から述べた。では、組織を固めて戦略を安定させればうまくいくかといえばそう単純なものでなく、問題はまだある。それはマーケティング部という部署の在り方、そして実際にマーケティングを実践するプレーヤーの資質だ。
ということで、今回は実際にマーケティングを担う「運営面」から見ていきたい。
秘訣5 マーケティング部は「企業の司令塔」
望ましいマーケティング部の姿とは何か――。
それは企業のなかにありながらも社員や組織からちょっと離れたところから見守る〝第三者的な存在〟である。というのも「全体を通して『いかに売るか』をコントロールする」のがマーケティング部の役割だからだ。
広告を刷新したり、企業メッセージを変えたり、ブランディングを微妙に修正したり、マーケティングの変更で突然売れ始めるのはよくあることだ。それは冷静に自社を分析し、なおかつ消費者ニーズを捉えた結果であり、マーケ上手な企業ほどこうした変化をさりげなく繰り返しているもの。
つまり、どっぷり企業のなかに浸かるより、商品・社員・組織を含めて〝トータルに俯瞰する〟方が、自社のあるべき姿もよく見えるというわけだ。
サッカーでいうところの「司令塔」みたいなもの――。それがマーケティング部の本来的な役割である。
マーケティング部がどっぷり浸かった〝悪例〟を挙げるなら「やたらよその部署に顔を出してお節介を焼く」「売れないとみるやすぐさま戦略を変える」「社員の声ばかりに耳を傾けて社会を向いていない」など。
普段は地道に雑務をこなしつつ、いざというときは社員にテキパキ指示を出して組織を大きく動かす――。これが正しい司令塔であり、本来は〝裏方仕事〟である。
もしマーケティング部が組織のなかに入り込みすぎているようなら、業務フローを見直すなり仕事の進め方や職場環境を改めるなり、マーケティング部の距離をある程度、離すべきだろう。近すぎては見えるものも見えなくなってしまう。
秘訣6 半端なプロより「完全なシロウトプレーヤー」がいい
部署の在り方よりさらに注意を向けるべきがマーケティングの実務を担う人々。すなわちプレーヤーである。司令塔の良し悪しが企業の命運を分けるのは言うまでもないことだろう。
さて、プレーヤーを考えるときは正式なマーケティング部はもちろん、部署を置かないまま〝実質的にマーケティング業務を担う人々〟も含めて考えるのが妥当であり、その代表例が「営業企画」だ。
営業を主軸にしながら販促企画や広告案も練り、果ては経営戦略まで関わる――。一見すると総合的プレーヤーのようでありながら、実のところマーケティング経験がないことも珍しくなく『曖昧なマーケティング』になっているケースが多い。
厄介なのは〝営業のちょっと上〟という位置づけで置かれることが多く、このため営業企画がそれなりの権限を持っていることだ。経験はないのに権限はある。こうなると司令塔の役割を果たさないどころか、マーケティング、そして組織そのものをどんどん間違った方向へ導いてしまうことになる。
数多のマーケティング担当者をみてきたが、肌感覚としては、司令塔をこなせるだけのプレーヤーは1割程度しかいない。
うちのマーケティング担当者は大丈夫だろうか――。そんな不安を解消する1つの方策がある。それは現在の担当者に「マーケティング戦略を描いてもらう」こと。
「PRでは〇〇をする」「販促企画は〇〇をする」「営業戦略の狙いは〇〇」「ブランディングでは〇〇する」など、マーケティングにかかる各領域の目的・手法・予算などを1つひとつ確認したうえで、それを達成するだけの道筋や計画があるかを今一度確認するのだ。
それが合理性と計画性を兼ね備えているなら優秀なプレーヤーであり、一方、計画を立てられず、必要なマーケティング領域も分からないようなら、メンバーチェンジをするなり部署としての在り方を考え直す必要があるかもしれない。
中小企業にオススメのマーケティング部とは?
そもそも「マーケティング部がない」という中小企業も多い。もしマーケティング担当者をよそから採用するのであれば、上記のような手法で「戦略がきちっと描けるか」を確認することをオススメしたい。
というのも履歴書に〝マーケティング経験あり〟と書かれてはいるものの、実際は「webマーケしかやっていない」「PR経験のみ」など『部分的なマーケティング』というケースが少なくないためだ。サッカーで言うなら「リフティングしかやっていない」「オフェンス経験のみ」といった状態。これでは得点もできないしゴールを守ることもできないだろう。
他方、新たに社内でマーケティング担当者を探すなら、いろんな業界を渡り歩いた転職経験が豊富な社員とか、営業も経理もやったことがある社員とかに着目するといい。「いかに売るか」という様々な実体験が役立つこともあるからだ。
以前、とある有名企業のマーケティング責任者がこんなことを語っていた。
「ブランディングなんて何もしなくてもいい。後からついてくるものですよ」
いやいや、すべきことは山ほどあるし、先にやってこそナンボの最重要な戦略。彼はPR出身者でマーケティング経験はゼロだった。たまたま売れている企業だからいいものの、半端なプロは知らず知らずのうちにおかしな方向へと導いてしまうから気を付けたい。
「お恥ずかしい話、マーケティングはまったくの素人です! よろしくお願いします!」
そんな企業の方が余計なバイアスがないぶん、じつは成功しやすい。
「マーケティング部なんてつくる余裕ない!」「うちは小さいからマーケティングなんて必要ない!」と考える中小企業は多いが、じつは1人でも十分にマーケティング部づくりは可能であるし、マーケティングをやったことがない企業ほど成果は現れやすいもの。
◆Yahoo!ニュースなど多くのメディアに転載された2018年以前のブログは↓
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